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 前々回前回に引き続き、小泉悠さんの新著『「帝国」ロシアの地政学 』(2019年、東京堂出版)の紹介を続けたい。

 本書においては、プーチン政権のロシアによるユーラシア統合の試みと、EUによる欧州近隣諸国政策~東方パートナーシップという東西の政策的なイニシアティブがせめぎ合って、ウクライナ危機を招来したことが、中心的なトピックの一つとして取り上げられている。本件は、私自身も研究に取り組んだので、本書の関連個所はとりわけ注意深く読んだ。

 当該の問題に関し、著者は次のような見解を述べている。

 プーチン首相が2011年に提起したEEU(ユーラシア経済連合)は、旧ソ連諸国内の経済統合による経済発展というポジティブな性格を装いつつ(実際、そのような効果は見込まれていたとしても)、それらの国々がEUの経済圏に取り込まれるのを防ぐこと=経済面でロシアの消極的勢力圏に留め置くという、よりネガティブな性格も有していたことになる。

 小泉氏のこの視点は、私にとっては新鮮で、「なるほど」とうならされた。ただ、私自身は、ユーラシア統合がロシア経済に及ぼしうるポジティブな効果(少なくともロシアの政策担当者はそのように信じた)に着目する分析を続けてきただけに、そうした側面ももう少し考慮に入れる方が公平ではないかと考える。2011年のプーチンのユーラシア統合構想は、ロシア・ベラルーシ・カザフスタンという3国の関税同盟がそれなりに上手く機能したことを前提にしたものだったし、当時ロシアの近代化が国是とされる中で、ロシアにとっての市場拡大や、イノベーション的発展といった要請が、ユーラシア統合構想に繋がった面があった。ウクライナは、単に潜在的な市場規模が大きいだけでなく、ロシアが戦略的に重視する航空・宇宙産業や原子力産業においてもパートナーと位置付けられていた。

 とはいえ、ウクライナ危機が激化するに連れ、もともとそれなりにあったと私が考えるユーラシア統合によるポジティブな経済効果といった要素は吹き飛び、小泉氏の指摘するようなネガティブな側面だけが前面に出る結果になったのは、そのとおりであろう。本書にある、「中長期的に見た場合、ロシアのこうした振る舞い(勢力圏を率いようとする大国的振る舞い)は周辺諸国の警戒感を強め、結果的に勢力圏を衰退させる作用を持つのではないだろうか」との指摘には、首肯せざるをえない。


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