3月23日のエントリーで、「ロシアの『戦略』2020の問題点」と題するエントリーを書いた。その後も本件に関する情報収集を続けており、こちらの記事が大変興味深かったので、紹介したい。「戦略」は、2008年にいったん採択されたものが、その後の経済危機などを受け、修正作業を経て今回の新版が採択されたわけだが、その修正作業にかかわった国民戦略研究所のM.レミゾフ所長が、「ヴズグリャード」というメディアのインタビューに応じている。所長は、新版の「戦略」の方向性が、プーチンの選挙公約と対極のものなので、「戦略」が活かされることはありそうもないという、かなり衝撃的なことを述べている。以下はその発言要旨。

 修正版の「戦略」が、なぜ今頃になって公表されたのかというのは、非常に単純である。選挙キャンペーンの期間中、それの邪魔にならないよう、伏せられていたということだ。「戦略」が伏せられている状態は、2011年4月20日から、2012年3月4日にプーチンが選挙で勝つまで続いた。2011年4月20日とは、プーチン首相が議会で政府活動報告を行い、その中で修正版の「戦略」の主要路線を退けた日だった。プーチンはその演説で、ポスト工業的な経済路線ではなく、積極的な産業政策、経済成長における国家の役割を主張したのである。選挙戦が進むにつれ、プーチンはその路線をさらに強め、修正版の「戦略」とは対極にある新たな工業化コンセプトを打ち出した。また、修正版「戦略」のイデオローグたちがロシアへの外国からの労働移民の受入に積極的なのに対し、プーチンはそれに批判的であった。

 プーチンは、夜警国家的なビジョンとは異なる、より中道左派的な、国家・開発路線を掲げて、大統領に当選した。新たな工業化、移民の制限、社会的公平がスローガンだった。もしもプーチンがこれらの公約を取り下げたら、政治的なメンツを失い、国民が寄せてくれた信頼を裏切ることになるので、プーチンはそれらの公約を実行していくはずである。

 むろん、「戦略」は広範な文書なので、都合の良い箇所が部分的に実施されることはあるだろう。メドヴェージェフが首相になった場合の社会・経済的イデオロギーには疑問も持たれるので、誰がメドヴェージェフ内閣の主要経済イデオローグになるのかが鍵となる。現在、それをめぐってエスタブリッシュメントのなかで競争が生じており、今回の「戦略」が公表されたのもその一環である。

 政権は2020年までに国防装備に20兆ルーブルを投入するというプログラムを2010年に承認しているわけだが、修正版の「戦略」の起草者たちは同プログラムを優先課題とは見なしておらず、そもそも産業政策およびハイテク振興の手段としての国防発注という路線を重要視していない。ところが、プーチンの選挙キャンペーンでは、国の発展はハイテク生産にかかっているという点が強調された。ロシアでは工業のうち最もハイテク的なセクターが国防産業なので、その保護・育成が死活的に重要とされるのである。

ブログ・ランキングに参加していますので、
よかったら1日1回クリックをお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ