ロシア『エクスペルト』誌2017年2月6-12日号(No.6)に、鉄鋼貿易をめぐるロシアとEUの対立に関する記事が掲載されている。これは、2015年5月14日から欧州委員会がロシア産および中国産の冷間圧延フラットロール製品に対する反ダンピング調査を開始し、2016年7月29日の欧州委員会決定により、同8月5日からロシア産品に18.7~36.1%の反ダンピング関税が課せられている問題である。ロシアはこれを不服として、2017年1月27日にWTOの紛争解決手続きの枠内でEUとの協議を求める照会を発出した。協議は紛争解決を目指す第1段階であり、そこにおいて解決策が見出されないと、ロシアは紛争審議のためのパネルの設置をWTOに求めることができる。

 記事によれば、ロシアの業界側はEU側のダンピング認定には根拠がないと指摘している。たとえば、ノヴォリペツク冶金コンビナートの幹部は、我が社はEU市場で公正な競争にしか関心がない、EUでは欧州企業が同様の製品を大量に生産している、ダンピングを非難されるのはまったく的外れだ、などとコメントしている。また、同社によれば、欧州委員会は生産コストを計算する際に、リペツクの実際のコストではなく、EUにおける同様のコストにもとづいており、その結果原料およびその他一般コストが人為的に引き上げられていて、こうした算定方式はWTOルールにもEUの法令にも違反しているということである。セヴェルスターリも、EUの調査はWTOルールに違反している、特にWTOルールによれば為替レートは売買日のそれを利用すべきなのに、EUは契約日のそれを用いている、その結果本来は1ユーロ=70~80ルーブルで換算されるべきであるところ、EUは40ルーブルというレートを用いている、とEU側を批判。また、実際にはセヴェルスターリが欧州委員会の調査に協力しているにもかかわらず、非協力を理由にコスト計算に不利な割り増しがなされたという。実際、EUがダンピング調査をする際に、外国メーカーの生産コストを、当該国の実際のコストではなく、EUの類似コストで算定しようするという点は、専門家の間ではよく知られた話である。そうした算定により、反ダンピング・マージンが、ひいては反ダンピング関税が拡大するわけである。ズベルバンクの専門家は、EUの冷間圧延フラットロール製品に対する差別的な措置によるロシアの被害額が、年間1,000万~2,000万ドルに上ると推計する。ただし、セヴェルスターリでは、販売先がEUから他の市場にシフトして稼働率が維持されているので、損害額を算出するのは困難だとしている。実際、後掲の図1に見るように、2016年にはロシアからの薄板の輸出が数量ベースで26%も伸びている。2016年には金額ベースで34億ドルの薄板が輸出され、うち8億ドルがEU向けだった。今回の反ダンピング関税の導入は、世界的な鉄鋼不況でEUの業界が苦しんでいることに原因があると思われ、現に図2に見るように、ロシアの粗鋼生産が過去10年ほど年間7,000万t前後で安定しているのに対し、EUはじり貧の状況にある。たった10年で、世界の鉄鋼生産に占めるEUの比率は、17%から10%に落ち込んだ。図3に見るように、EUは大口の鉄鋼輸入国に留まっており、ロシアからの冷間圧延フラットロール製品の輸入は規模的にそれほど大きくなくても、欧州メーカーの不満の種となっていることは理解できる。

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