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 こちらに、2016年のウクライナの産業動向をまとめた記事が出ているので、主要部分を以下のとおり抄訳しておく。

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 ウクライナで政変が起きて3年目にして、ようやくウクライナ産業が活気付く兆候が見え始めた。見て取れるのは3つのトレンドである。第1に、産業部門別のクラスターが復活したり、新たに形成されたりしている。第2に、各企業は活発に新たなパートナーや販売市場を模索している。第3に、ウクライナの生産・産業文化はますますグローバルな通商慣行に統合され、世界的な経営およびロジスティクスのスタンダードに移行し、資本市場のルールを受け入れている。

 かつて販売の70~80%をロシア市場に依存していた各企業も、新たな市場を開拓している。「ザポリージャ変圧器」社は、10年のブランクを経て、マレーシアに発電所用のリアクター5器を納入する入札に勝利した。また、同社として初めて、南アフリカに変圧器を輸出する契約を勝ち取った。

 ミコライウのゾリャー・マシプロエクトは、軍用船向けのガスタービン等を生産しているが、中国、イラン、インドなどアジアでの営業を強化しており、インド向けには4隻の軍用船用のタービンを供給した。ガス汲み上げおよびコンプレッサーステーション用のポンプ設備などを生産しているフルンゼ記念スムィ科学生産合同も、アジア市場に重点を置いているが、まだアジア市場でロシア市場の喪失を埋め合わせるには至っていないので、ウクライナ国内市場の復活に期待をかけている。

 他方、問題は、ウクライナでは現在に至るまで、産業政策の調整役となる国家機関が存在していないことであり、過去5年ほどその創設の試みが続けられているが、実を結んでいない。それゆえに、一つの部門が他部門の動きについて情報を持たず、活動に齟齬が生じることがある。ウクルトランスガスが南方面の一連のコンプレッサーステーションを近代化する入札を発表しているが、ロシアがトルコストリームを打ち出したことで、40億グリブナの資金は無駄になった。しかし、フルンゼ記念やゾリャーのような規模の企業には、特に現時点では、このような大型受注が必要である。

 ウクライナ政府はザポリージャ・アルミ・コンビナートを国営に戻したものの、デリパスカのルサールが原料供給に応じないため、その稼働は実現できないでいる。工場の接収後、状況はまったく変わっておらず、工場は再び払い下げられることになろう。

 鉄鋼業は、ウクライナの最大産業に留まっており、外貨収入の3分の1を占めている。2016年1~11月の粗鋼生産量は2,220万t(前年同期比5.6%増)で、世界第10位であった。

 他方でウクライナは鉄鉱石輸出市場を失いつつあり、特に中国市場ではオーストラリアとブラジル勢に駆逐されている。特に輸出を減らしているのは北鉱山、南鉱山、クリヴィーリフ鉱山であり、一方、生産および輸出量が最大なのは引き続きポルタヴァ鉱山である。中国への輸出減は、セルビア、日本、韓国への輸出増によって部分的にカバーされた。また国内供給も増加し、アルセロールミタル、アルチェウシク、エナキエヴェの各製鉄所が消費を拡大した。

 アルチェウシク、エナキエヴェの両工場は武装勢力の占領地域にあり、ドンバス紛争後はほぼ操業停止していた。2016年の前向きな動きとして、占領地域のほぼすべての冶金工場が生産を再開し、大幅な生産増を記録したことが挙げられる。ドネツィクスターリは、銑鉄生産を倍増させ、新製品の生産にも乗り出している。エナキエヴェ、マキイウカの両工場も新たなサイズのL字鋼2種類を生産し、輸出向けに出荷する。

 イリチ記念コンビナート、ザポリジスターリは、輸入代替の一環として、ボロナイジング鋼板の生産に着手した。農機向けに利用される鋼板であり、従来はフィンランドやポーランドから輸入されていた。

 鉄鋼業界は政府から国内市場の保護措置も取り付けた。9月には大統領が、屑鉄の関税率を1t当たり10ユーロから30ユーロに引き上げる法律に署名、割高な関税は1年有効となる。屑鉄の利用は、粗鋼の生産コストを大きく引き下げる。ウクライナでは過去3年間も屑鉄の不足が続いており、2016年初頭には20%に達した。たとえば屑鉄だけを原料としているインテルパイプ・スターリでは、2ヵ月の操業停止を余儀なくされた。しかも、ウクライナの鉄鋼各社はロシアからの海綿鉄の輸入を4倍も拡大することを余儀なくされた。11月には屑鉄に対する5%の関税を撤廃する法律が成立、これによって屑鉄輸入の拡大が可能になり、鉄鋼業は国から多大な支援を受けた形となった。(注:文意、事実関係など、やや不明瞭)

 化学工業は、オリガルヒに押され、ウクライナ政府にとって2016年に最も上手くいかない産業部門となった。フィルタシのOstchemグループは2006年~2011年に供給されたガス代金の未払いを起していたが、それを取り立てたことに対し、2016年3月に当時ヤツェニューク首相が率いていた内閣はナフトガスおよびガス・ウクライナの幹部に国家勲章を授与した。和平協定調印後、Ostchem傘下のチェルカスィ工場、リウネ工場はナフトガスおよびガス・ウクライナに30億グリブナのガス債務を償還した。セヴェロドネツィクおよびスチロールの債務は、ドンバス停戦後に24ヵ月かけて分割払いされることになった。フィルタシは自社の工場に再びガスを供給できるようになった。

 しかし、フィルタシは徴収された30億グリブナを許容することはなかった。彼は肥料市況を良く知っており、現在の価格動向では肥料を生産しても天然ガスの原価を賄えないので、リウネ工場とチェルカスィ工場は2016年中ほぼずっと操業を停止し、「本格改修」に入った。10月13日、Ostchemは、セヴェロドネツィク工場をロシアから運ばれたアンモニアを原料として稼働再開することを表明、またコジェネ設備を導入してエネルギー依存を解消すると発表した。しかし、12月7日にはセヴェロドネツィク工場が1,700人の従業員を解雇する計画であることを発表。Ostchemは2016年のウクライナの窒素肥料市場におけるロシア産のシェアが51%に達しており、早急にアンチダンピング関税の導入が必要と表明した。農業団体は、Ostchemがロシア産肥料に関する事実を歪めていると批判している。それでも経済発展省は、ウクライナが単一の供給者に依存していることから、ロシア産の窒素肥料に18.8~31.8%の関税を設定することを提案している。ただし、正式決定には議会での立法化が必要である。

 まさにこの時期、ウクライナ最大の肥料工場であるオデッサ臨港工場民営化の2回目の公開入札が失敗に終わったことが明らかになった。1回目の入札は2016年7月に失敗し、価格は5分の2の2億ドルにまで引き下げられた。専門家らによれば、入札が上手く行かなかった主原因は、ウクライナに自由なガス市場が存在していないこと、同社をめぐり腐敗が生じていることだという。その間に、ロシアのトリヤッチアゾトは、オデッサ臨港工場向けのアンモニアのパイプライン輸送の停止を表明した。2016年の輸送量が1t当たり8ドルに引き上げられていたことを無効とするよう裁判所に訴えていたが、敗訴したからである。料金の引き下げと過払い分の返還を提案しており、交渉が行われている。7月25日にストックホルム仲裁裁判所はオデッサ臨港工場がOstchemに2.5億ドルを支払うべきという判決を下しており(この金額は年初にフィルタシが徴収された額の2倍に当たる)、Ostchemは12月27日オデッサ州ユジネ市裁判所に対し同判決を承認し強制執行することを求める訴えを起こしている。


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