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 以前もタイトルだけご紹介したが、このほど読了したので、改めて取り上げさせていただく。杉本侃編著『北東アジアのエネルギー安全保障 ―東を目指すロシアと日本の将来』(日本評論社、ERINA北東アジア研究叢書5、2016年)である。A5判・312頁、定価:本体5,400円+税となっている。

 ERINA北東アジア研究叢書の一環として刊行された本書は、2011年度に立ち上げられた「北東アジアのエネルギー安全保障に関する共同研究グループ」の研究成果をまとめたものということである。エネルギーの大供給国ロシアと、大消費国日本の関係を、様々な視点から分析することで、周辺諸国を含む北東アジア全体のエネルギー安全保障を論じている。また、研究会立ち上げ後の2014年に、ウクライナで政変が発生したことから、それによって生じたウクライナ危機が図らずも本書の重要な背景になっている。

 順を追って見ていくと、新井洋史による第1章「序論:北東アジアのエネルギー情勢をどう捉えるか?」は、北東アジア地域の持つ特性、日・韓・北朝鮮・中・モンゴル・露という各国の経済・エネルギー事情、国際インフラの特性と整備状況、地域国際協力の枠組みについて論じている。

 本村眞澄による第2章「パイプライン政策とエネルギー安全保障」では、エネルギー安全保障についての視点、パイプラインというものの特質、ロシアのパイプライン政策と対欧米関係、ウクライナのパイプライン問題などが扱われている。パイプライン問題をいたずらに地政学的対立と捉えることを戒める本村氏の年来の主張が改めて打ち出されている。

 兵頭慎治、エレナ・シャドリナ、蓮見雄、原田大輔による第3章「ロシアの対外エネルギー戦略」は、ロシアと北東アジア、ロシアとアジア、ロシアと欧州、ロシアと日本のそれぞれの関係について論じている。

 篠原建仁、安達祐子、蓮見雄、原田大輔、による第4章「ロシア・エネルギー企業の戦略」では、ロスネフチ、ガスプロム、ヤマルLNGプロジェクトについての分析が披露されている。

 真殿達による第5章は、「ウクライナ危機とは何だったのか」というもの。ウクライナ問題の本質に関する、鋭く、目配りの効いた考察だと感じた。

 杉浦敏廣による第6章「カスピ海の資源開発動向とアジア地域への波及」は、カスピ海における石油ガス開発の概況を論じ、アジアへのインプリケーションを探ろうとしている。

 シャグダル・エンクバヤルによる第7章「エネルギーと気候変動」は、本テーマに関する基本を解説した上で、その問題設定を北東アジアに当てはめ、地域のエネルギー消費のあるべき姿を模索した論考である。

 杉本侃による第8章「日ロエネルギー協力の展望」は、長年この分野に携わってきた著者らしく、ロシアのエネルギー戦略の歴史的変遷を踏まえ、日ロ間のエネルギー協力の課題が論じられている。

 巻末には、執筆者らによるウクライナ危機および日本のエネルギーの課題に関する座談会の模様も採録されている。

 書名に「北東アジア」と冠されてはいるが、本書で極東地域を扱ったのはむしろ一部であり、ロシアのエネルギー問題全体に関する概説書だと理解していいだろう。より正確に言えば、ロシアのエネルギー戦略の全体像、ウクライナ危機、東方シフトといった背景を理解した上で北東アジアのエネルギー安全保障を考えるべきだというのが、本書のメッセージなのだろう。



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