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 このほど読了した、久保田博幸『聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓』。最近私は、狼少年よろしく、日本の財政問題についての危機意識をことあるごとに表明しているのだが、正直言えば、本書の著者である久保田博幸氏の受け売りの部分が大きい。この方はYAHOOのアプリの経済コーナーに毎日コラムを執筆しているので、それを読むのが日課になっている。で、YAHOOのコラムは無料で読めるが、これだけ色々勉強させてもらっているのでタダ乗りはいけないと思い、その著書を買って読んでみることにした。それが本書『聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓』というわけである。著者は前書きでこんな風に言っている。

 私はリフレ派と呼ばれる人達の考え方に対しては、あまり賛同できません。そのリフレ派がデフレ脱却の手本としていたのが高橋(是清)財政でした。リフレ派は特に大きなレジーム・チェンジとされた日銀による国債引受が、デフレ脱却に大きな効果があったとの見方をしていたのですが、ここに違和感を覚えていました。是清の政策が何か勘違いされている面があるのではないかと訝しんでいたのです。

 日銀による国債引受は戦後に制定された財政法で禁じられており、主要国でも中央銀行による国債引受は禁じられています。その禁じられた政策を行ってまで、デフレから脱却を目指すとするリフレ派の意見は、危険な発想と考えていました。

 アベノミクスにおける金融政策では、さすがに財政法で禁じられている日銀による国債引受までは踏み込みませんでしたが、その代わりに年間発行額の7割もの国債を買入れるという異次元緩和政策が決定されたのです。

 リフレ派の政策が日銀の政策となり、その模範とされたのが是清の政策であるのならば、高橋財政を改めて確認し、アベノミクスと比較することがたいへん重要です。

 高橋財政でデフレ脱却に成功したのは、最初のレジーム・チェンジとされる金輸出禁止による効果が大きかったように思われます。

 期待に働きかけるというより、円安や財政政策、政策金利の引下げなどにより直接に経済に働きかける経路が存在していたのです。その財政政策に必要とされる国債の発行方式として日銀の国債引受を選択したと思われます。

 これに対してアベノミクスでは、円安による株高や輸入物価の上昇等への影響はあったものの日銀の異次元緩和が実体経済に働きかけるような経路が見当たりません。リフレ派の言うところの期待に働きかける効果についても、なにやら呪文で物価が上昇するかのような印象を持っています。

 アベノミクスの中心には日銀の異次元緩和があり、その異次元緩和の主役は国債です。日銀による国債引受が、かつて高橋財政の出口政策を困難にさせることになりました。アベノミクスもやはり同様に出口が大きな問題となることが予想されます。

 安倍首相や麻生蔵相は、戦前に高橋是清が財政ファイナンスを断行し、その結果デフレ・不況を脱却したとして、リフレ政策を正当化している。しかし、現実には高橋財政は国債の日銀引き受けの賜物というよりは、その他の条件に恵まれたがゆえに不況を脱出できた。しかも、財政ファイナンスという禁断の政策手段を選択したため、軍事費拡張を求める軍部の圧力に抗しきれず、戦後のハイパーインフレの原因を作るとともに、自らも二二六事件で暗殺される憂き目に会うわけである。これは、日本財政史の黒歴史に他ならないが、数十年後の似非経済学者や為政者によって高橋財政の真相が曲解され、新たな財政破綻を招くようなことがあれば、二重の悲劇となろう。



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