昨年12月にウクライナに現地調査に出かけ、キエフの街中を歩いていた時のことである。写真に見るように、「ベラルーシ食品 ソ連の高い品質」と大書きされた売店が目に留まった。これは何かのブラックジョークだろうかと思い、中を覗いてみると、確かにそこにはベラルーシ産の食料品だけが並んでおり、売り子も「これらはれっきとしたベラルーシ産食品です」と言う。不思議な業態もあるものだ、ウクライナでニーズがあるのだろうかと、首をかしげながら、その場を後にした。
ところが、最新のこちらの記事によると、これはきちんと成立しているビジネスのようだ。ベラルーシ産の肉製品や乳製品は、昔ながらの自然な風味が受け、少なからぬウクライナ消費者に好意的に受け入れられているようなのだ。彼らは、ベラルーシ産は乳製品本来の味がするから選ぶようにしている、添加物が少なくソ連時代の食品を懐かしく思い出す、ベラルーシ産は値段は多少高いが品質はもっと高い、すべてをコントロールしているルカシェンコは偉い!などと、口々に語っているという。ベラルーシ・ウクライナが地理的に隣接していることに加え、ベラルーシ・ルーブルの大幅切り下げもあって、昨年ベラルーシのウクライナ向け乳製品輸出は40%も増えた。
そうしたなか、2011年になって、ベラルーシ食品を専門に販売するキオスク・売店が、ウクライナの大都市に出現し始めた。通常は、地下鉄駅や市場の近くに設けられている。私がキエフの街角で目撃したのと同じように、「ベラルーシ食品 ソ連の高い品質」とシンプルに消費者に訴求しているらしい。現実には、ベラルーシ産食品はウクライナ産よりも10~20%も割高であるものの、それでもよく売れる。ただし、商品の多くはグレーな国境貿易でウクライナに持ち込まれており、キオスク・売店の店主たちも自らの名や企業名は語りたがらないのだという。
そうしたなか、前掲の記事によれば、ウクライナは3月1日付で、ベラルーシ産の肉製品および乳製品の輸入禁止措置を導入した。ベラルーシ産食品の植物・衛生基準が、ウクライナの法令の要求を満たしていないことを、その理由としている。しかし、上述のようにベラルーシ産食品がウクライナ市場で存在感を増していることに危機感を抱いたウクライナ政府が、国内生産者保護のために当該措置をとったのではないかという見方もある。なお、アザロフ首相は、本件輸入禁止措置は一時的なものであり、ベラルーシ側がしかるべき対応をとれば解除する旨発言している。