こちらのサイトに、大統領選を前にしたばらまき公約が、ロシア財政を圧迫する危険を指摘した『ジェーニギ』誌の記事が掲載されているので、その要旨を以下のとおり簡単に紹介しておく。
先日ロシア軍参謀本部のN.マカロフ将軍が、国防省はもう5年間も新たな火砲を調達していないという不満を語ると、D.ロゴジン副首相がその援護射撃をして、早速翌日プーチン首相がお得意の調停者の役割を果たすべく乗り出すという一幕があった。首相は、セルジュコフ国防相および(有力な軍需企業の)ウラル鉄道車両工場のO.シエンコ社長と面談したのである。
ばらまきは国防だけでなく、医療、教育、インフラ、年金、税制などで乱発されており、相互に整合しない数字が飛び交い、タガが外れた状態である。付加価値税の税率およびフラット制の維持を今日唱えていたかと思えば、翌日には引き上げや累進課税を語ったりする。優先分野は高等教育であると今日言っておきながら、翌日には宇宙、その翌日にはサッカーと言い始める。選挙戦がたけなわで、大衆迎合主義が頂点に達しているのだろうが、多くの公約は財政の現実の可能性と合致せず、財政過程を麻痺させかねない。
首相から歳出拡大の約束を取り付けていない省庁は一つもないといった事態に、もうすぐなりそうである。ロビイストたちの陳情をすべて満たしてあげるような芸当は、クドリン前副首相・蔵相にすら不可能だろう。ただ、クドリンは最低限の財政規律を保持できるという点で、プーチンの信頼を得ていた。その点、シルアノフ現蔵相には荷が重く、現在の真空状態に対処するのは容易ではあるまい。
よしんば、財源が足りたとしても、それを獲得する方法が腐敗的なものにならざるをえないというのが問題だ。昨年の国防発注にしても配分メカニズムの不備に加えて、古臭いドグマにもとづくものだった。同じことは経済に関しても言え、サッカーから自動車産業に至るまでいっぺんにあらゆる分野に資源を投入しようとしており、これは今日の国際分業にマッチしていない。ただ、特定の成長分野に特化しようとすると、国民向けに難しい説明を迫られることになり、それは今日のロシアの権力者のスタイルではなく、選挙前となればなおさらである。
すべての公約を実行するのは不可能だが、ポピュリズムと財政的統合失調症はますます強まるだろう。選挙公約を実施するうえでの基盤となるのは来年に向けた予算教書だが、その策定は頓挫した状況にあるという。結果として、財政・税制が立ち行かなくなり、一つの公約を実施しようとするとその他の公約が全部損なわれ、それでなくとも危うい政権とビジネスの関係、中央と地域の関係が崩れてしまうことになりかねない。