ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

 ロシアが貿易統計を発表しなくなったので、主要相手国の発表する統計をミラーデータとして用い、間接的にロシアの貿易動向を探るという作業を、昨年から続けている。日本の貿易統計も、6月分までが出て上半期の数字が判明したところなので、久し振りにグラフを更新してみた。

 以下の図は、侵攻前の2021年の月平均の商品輸出入額を100として、2022年1月~2023年6月までの月別取引額の推移を見たものである。基本的にドルベースだが、EUはユーロ、英国はポンドの増減を示している。いつも思うことだが、東アジアの日中韓の統計が早いのに対し、欧米はだいたい1ヵ月遅れとなっている。

 まずは、主要国の対ロシア輸入、つまりロシア側から見れば輸出動向を示したのが、下図となる。ここではとにかくウクライナ戦争後にロシア原油を爆買いしているインドが突出しており、直近の5月に過去最高額をたたき出した。トルコもロシアのガス、石油、石炭、穀物などを旺盛に輸入しているが、ここに来て下降気味なのは価格要因によるものか。非友好国は当然下り坂であり、先行した英米だけでなく、EUの着実な低下も目を引く。

0809a

 主要国の対ロシア輸出、すなわちロシア側の輸入においても、友好国と非友好国とで状況が分かれている。もっとも、非友好国からの輸入も低位安定の感もあり、消えてなくなる雰囲気はない。ここでも、トルコが一頃の勢いを失いつつあり、トルコ経由の迂回輸出がやや下火になりつつあることをうかがわせる。

0809b

 なお、2023年上半期の日本の対ロシア輸出は18億387万ドルで前年同期比25.8%減、対ロシア輸入は42億6,412万ドルで前年同期比53.0%減であった。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

81eXpgEULEL

 久し振りに雑誌『世界』に書かせていただきました。本日8月8日発行の2023年9月号に、「『プリゴジンの乱』後のワグネル ―ベラルーシが安住の地に?」を寄稿したものです。雑誌の一番冒頭の「世界の潮」というコーナーに載っているようで、ちと照れますね。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

6

 こちらの記事によると、ノヴォシビルスクで無人機関係の「アルヒペラ2023」という催しが開催され、その席でA.ベロウソフ第一副首相がロシアにおけるドローン分野の現状と展望につき語ったということである。

 なお、記事とは関係ないが、上掲画像は、2022年秋にアルマズ・アンテイ社が鳴り物入りで市場投入した「ドブルィニャ」というクワッドコプター。もっとも、基本的に中国製品のコピーであり、カメラやその他の主要な電子機器も中国からの輸入らしい。

 記事によると、ベロウソフ第一副首相は、現在ロシアには70社ほどのドローン・メーカーがあり、うち20社ほどが大手であると語った。

 当ブログでは先日、「ロシアが2030年までの無人機発展戦略を採択」という話題をお届けした。実は、この戦略に対応する「ナショナルプロジェクト」という政策文書を、8月末までにロシア政府が制定することになっている。今回ベロウソフ第一副首相が述べたところによると、当該のナショナルプロジェクトは、5本の「連邦プロジェクト」から成り、具体的には、①需要、②生産、③規制、④人材、⑤未来に向けた知的基盤、をそれぞれカバーすることになる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1579

 ウクライナ侵攻後に多くの先進国企業がロシア向けの商品供給を停止すると、ロシア政府は正規でない並行輸入を積極的に奨励するようになり、それが認められるブランドのリストを制定している。こちらの記事が、そのリストにこのほど追加が加えられたと報じている。

 記事によると、このほどロシア産業・商業省が並行輸入ブランドリストに追加したのは、バッテリー(Panasonic, Duracell, Varta)、自動車部品(BOMAG, Isuzu)、カメラ(Canon, Fujifilm, Sony)、眼鏡(Ray-Ban, HUGO, Calvin Klein)などのブランドという。これに対し、Acuvueのレンズなどは、「公式供給を誠実に継続している」として、リストに加えられなかった。

 なお、先日のペテルブルグ国際経済フォーラムに際し、「同等の中国製品が入手可能である」として、デジタル相がサムスン、LGのスマートフォンを並行輸入リストから外すという考えを示す一幕があったが、今回の改定ではそれは見送られ、韓国ブランド・スマホの並行輸入が引き続き可能となった。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 さて、この週のチャートを見ると、私にとっての本筋と言えるタムラ・モータウンから、リトル・スティーヴィー・ワンダーのFingertips (Part II)が1位に輝いている。まあ、しかし、大ヒットの割には、現代の価値基準からすると、それほど何度も聴きたいと思う曲でもない。それよりは、むしろ54位のDarlene Love - Wait Til’ My Bobby Gets Homeの溌剌とした魅力に、強く惹かれる。種明かしをすれば、この曲は26位までしか上がらないので、もう取り上げてしまおう。

その頃ソ連では
1963年8月5日:米英ソが部分的核実験禁止条約を結び地上での実験が禁止に。

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ
19630810a
19630810b
19630810c

1578

 少々遅いフォローになってしまった。こちらの記事で知ったのだが、ロシア政府が6月21日付の政府指令で、「2030年までの、また2035年までを視野に入れた、ロシア連邦の無人航空発展戦略」を採択したということである。戦略はこちらのサイトで閲覧可能。

 なお、無人機と言えば、今日のウクライナ侵攻での利用が想起されるが、今回採択された戦略は、民生部門での無人機利用に主眼を置いた文書になっており、むしろ軍需部門での蓄積を民生部門にフィードバックするといった発想に立っている。

 ちなみに、戦略の記述によると、2018~2022年のロシアでは国家セクターが無人機利用の大半を占め、その30%が国防・安全保障・治安維持・災害対策部門、26%が科学・教育部門、10%が行政部門、34%がその他部門による調達だったという。

 2018~2022年にロシアは6億ルーブルの無人航空システム輸出を行い(無人機の販売だけでなく関連サービスの提供も含んでいる模様)、うち62%がスーダン向け、12%がベネズエラ向け、9%がウズベキスタン向けであった。

 ロシアの無人機市場における国産品の比率は、基礎シナリオでは、52%、70%、80%と推移していくことになっている。これも進歩シナリオはより意欲的で、2031~2035年には85%に達するとされている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1576

 こちらの記事が、ロシア最大の(というか実質的に唯一に近い)地場乗用車メーカーであるAvtoVAZの生産動向につき伝えているので、整理しておく。

 これによると、AvtoVAZの乗用車生産台数は、2022年には22万台だったが、2023年の生産計画は40万台強となっており、同社ではこの計画を維持する方針である。なお、2022年の生産台数は外国ブランド車の現地生産を含んでいたが、外資の撤退により、現状では国産ブランドLADAに集中している。

 2023年1~7月の生産は、前年同期比59%増であった。うち、LADA車の生産は80%増で、16.1万台であった。

 AvtoVAZはトリヤッチ、イジェフスク、サンクトペテルブルグに工場を有している。昨年5月に仏ルノーが持ち株67.69%をロシア国有に売却した。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1574

 Wedge ONLINEに、「ワグネルで息を吹き返すベラルーシ 次なる触手は」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

10

 黒海穀物イニシアティブがストップしてしまったのは痛恨だったが、研究する立場上は、小括するのには良い機会なので、改めてデータをまとめておく。本件に関しては、7月18日付のエントリーで紹介したが、その時は7月4日までのデータと中途半端なものだったので、合意が切れるぎりぎりの16日までの累計で計算し直した。まあ、その結果、中国が0.1%減って、中国以外の高中所得国が0.1%増えるだけの変化しかなかったが(笑)、何にしても、データをアップデートできてすっきりした。

 それで、今回は初めての試みとして、農産物の種類別の輸出先も整理してみた。それで作成したのが、上図である。以下、気付きの点を箇条書き。

  • 何度も言っているように、プーチン政権は、ウクライナの穀物が最貧国にはほとんど行っていないと批判しているわけだが、私はその際の指標として、後発開発途上国(LDC)向けの輸出を見るのがフェアだと思う。ところが、LDCというのは厄介で、低所得国でもLDCでないところもあれば、低中所得国でもLDCの国もある。後者の実例がバングラデシュであり、実は黒海穀物イニシアティブの枠組みでウクライナはバングラデシュにかなり農産物を供給している。最貧国に農産物が届いているかを問う場合に、低所得国なのか、LDCなのかで、数字が変わってくる。プーチン政権は前者のことしか言わず、それは間違いではないが、かなり作為的と言わざるをえない。
  • ウクライナの穀物輸出の半分以上は、とうもろこしである。小麦主体のロシアとは、その点が異なる。そして、それは飼料用のとうもろこしであり、過去10年ほど、中国、スペイン等の養豚産業をターゲットとして伸びてきた部門である。したがって、黒海穀物イニシアティブの下でも、とうもろこしの輸出がEUと中国に偏重するのは当然であり、結果としてウクライナの穀物全体、農産物全体で見ても両市場向けが多くなるのも、必然の成り行きである。それを捉え、プーチンが、やれ最貧国に届いていないとか、豊かな国の大企業ばかりが得をするといった批判をするのは、的外れだ。
  • 他方、ウクライナにとっては必ずしも主力というわけではないが、小麦の輸出ではLDC向け、その他の低所得および低中所得国向けが多い。ウクライナの小麦は、先進国市場では品質の問題ゆえ飼料向けに回されることが多いが、途上国ではヒトの食用になっているはずであり、現地の栄養状態向上に貢献しているであろうことは間違いない。
  • 植物油は、LDC以外の低所得および低中所得国向けが最も多いが、実はその大部分はインドである。
  • ミールとは、大豆やひまわりの種といった採油作物から植物油を搾り終わった後の搾りかすのことである。かすと言っても、栄養価が高く、飼料として利用される。その大部分は中国に向かっているようだ。やはり養豚団地の餌か。
  • 大麦は、ヒトの主食という感じではなく、飼料用、加工食品用、ビール・ウイスキー用など、用途は様々。ウクライナ産は、はやり飼料用がメインかな。
  • ロシアのひまわりは有名だろうが、それ以外にも菜種、大豆という採油作物も重要である。かなりの部分がEUに向かっている。ただし、ウクライナの政策として、世界に冠たるひまわりは、種のまま輸出するのではなく、なるべく国内で絞って油として輸出する政策なので、実はひまわりの種の輸出量はそれほどでもない。

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

photo-2023-07-28-14-35-21

 こちらの発表によると、ウクライナは現状で財政歳入の約半分を外国からの支援に依存しているということである。最高会議広報部のR.ピドラサ(上掲写真)が発表した。

 これによると、2023年上半期に、ウクライナの国庫に、国際的なパートナーからの財政支援が253億ドル(9,239億グリブナ)寄せられた。これは上半期の全歳入の49.1%に相当する。

 最大のドナーはEUで、マクロ金融支援の枠内で114.3億ドルの優遇融資を提供している。

 しかしながら、無償支援では米国による72億ドルが最大となる。ウクライナの国家債務および政府保証債務がすでにGDPの78.5%に達していることを考えると、これは重要な措置である。

 その他のドナーとしては、IMFの35.9億ドル、カナダの17.6億ドルなどがある。

 2022年の財政支援は合計323億ドルで、うち米国が119.9億ドル、EUが79.6億ドル、IMFが26.9億ドル、カナダが18.9億ドルだった。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

n7mtl5yiumniowhvvos6afulir0mci2q

 ロシアは、自国の穀物・肥料輸出円滑化に関する約束が果たされていないので、ウクライナ農産物の輸出に関する黒海穀物イニシアティブから離脱すると表明した。しかし、当ブログで既報のとおり、確かに多少の障害には直面しているのだろうが、現実にはロシアの穀物も肥料も輸出は好調のようである。

 その傍証として、今日はロシアの港湾貨物量をチェックしてみることにする。上図は、ロシアの自然独占問題研究所がこちらで発表した2023年第2四半期および上半期のロシア港湾における取扱貨物量を整理した資料である。

 その際に、ロシアの港湾の特徴は、重量ベースで見れば、輸入よりも輸出が圧倒的に多いという点である。何でそうなるかは単純で、ロシアは原燃料を主に輸出し高度製品を輸入する国なので、スマホ1台(パッケージを含め500グラムくらいか)を輸入する外貨を稼ぐのに、石油を1tくらい輸出しなければならないわけである。単純に考えれば、重量差は2000倍か。以下に登場する各貨物は基本的にすべて輸出貨物と理解して間違いなく、コンテナだけが基本的に輸入のバロメーターと言える。

 さて、2023年上半期のロシアの港湾貨物量は4億5,540万tで、前年同期比11.0%増だった。海域別の増加率は多い順に、以下のとおりとなっている。

  • カスピ海:38.0%
  • 黒海・アゾフ海:21.1%
  • 極東:7.5%
  • バルト海:7.0%
  • 北極海:2.0%

 カスピ海は絶対量が少ないので、増加率が大きくても特筆すべきではないのかとこれまで思っていたが、イランとのいけない取引が増えていることを意味するとしたら、警戒すべき現象かもしれない。

 次に、2023年上半期の個別品目の貨物量増減を、大きい順に示すと、以下のとおりである。上述のとおり、コンテナ以外は、ほぼほぼ輸出貨物と理解していい。

  • 穀物:118.3%
  • 肥料:55.8%
  • 石炭・コークス:10.5%
  • 原油:7.5%
  • コンテナ貨物:3.6%
  • 石油製品:▲0.8%
  • 液化天然ガス:▲3.7%
  • 鉄鋼:▲16.8%
  • 鉱石:▲27.0%

 う~む、やはり穀物、肥料とも、絶好調ではないか。ちなみに、肥料の場合は、これまでバルト三国等の外国の港から輸出していた分が続けられなくなり、国内の港にシフトしているという面がある。また、ベラルーシの肥料も同様にバルト三国港湾の利用を止めたため、ロシアの港がベラルーシの肥料の面倒まで見なければならなくなったという要因もあろう。しかし、いずれにしても、「ロシアの穀物・肥料輸出が、欧米の制裁により、障害に直面している。これでは世界を飢餓から救えないので、制裁を緩和せよ」というロシアの主張は、眉唾である。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

20230729a

 HP更新しました。マンスリーエッセイ「暮らしてみて感じた北海道あるある(上)」です。よかったらご笑覧ください。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 今週1位に輝いたのが、Tymes - So Much In Love。いかにもアメリカン・オールディーズ然としたコーラス曲。日本では、山下達郎さんが一人アカペラでカバーしたことで有名だろう。ただ、前から思っていたのだが、カメオ・パークウェイというレーベルは、意図的に、こういうノスタルジックな作品を送り出していたような印象がある。1963年というと、もうドゥーワップは下火で、ビートルズら英国勢に席巻される前夜だったわけだが、古き良きアメリカン・オールディーズが最後の輝きを放った一曲がこれだったと、そんな感じがする。

その頃ソ連では
1963年7月29日:ソ連が旅客機「ツポレフ134」の初飛行を敢行。

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ
19630803a
19630803b
19630803c

1573

 こちらの記事が、ベラルーシの上海協力機構加盟をめぐる動きを取り上げているので、以下要点を整理しておく。

 ベラルーシの独裁者ルカシェンコはこのほど、上海協力機構の枠内で調印されていた22の条約にベラルーシが参加する旨の法律に署名し、7月13日に法令ポータルに掲載された。この法律は、ベラルーシの上海協力機構正式加盟に向けたプロセスの一環として採択された。

 ベラルーシは、2024年初頭にも、上海協力機構に正式加盟すると見込まれている。

 専門家のP.マツケヴィチは、ルカシェンコにとり上海協力機構は都合の良い舞台であると指摘する。欧米諸国と異なり、上海協力機構加盟諸国はすべて、ルカシェンコを正式に選出された大統領と認めている。そのサミットでは、4ヵ国が核保有国の元首であり、ルカシェンコは彼らと同格のパートナーという実感を味わえる。それは、ベラルーシがいまだに主権国家であり、ルカシェンコが引き続き多元外交の姿勢を崩していないと誇示する場となる。もやはロシアと西側の間でバランスをとるのは不可能なので、新たな支柱、とりわけ中国に頼ろうとしている。

 別の専門家のR.トゥラルベコヴァは、次のように指摘する。ベラルーシにとり東方ベクトルは新しいものではない。イデオロギー的にはルカシェンコの勝利のように見えるが、欧米市場を失った損失は、基本的にロシア市場で埋めている。中国との貿易はわずかながら拡大しているが、二国間貿易はベラルーシ側の入超である。

 マツケヴィチによれば、上海協力機構の経済ポテンシャルは確かに大きく、自由貿易圏の創設も検討されている。加盟諸国がベラルーシのカリ肥料や農産物購入を拡大することは考えられるし、加盟により輸送問題の解決、たとえばイラン経由でアフリカ市場にアクセスすることが促されるかもしれない。

 ただし、トゥラルベコヴァが指摘するように、上海協力機構は経済援助組織ではない。先日カザフスタンのトカエフ大統領は、上海協力機構は20年で大規模な経済プロジェクトを一つとして実現できなかったと批判した。同機構の弱点は、金融機関を有していないことである。したがって、ベラルーシもプロジェクトファイナンスには期待できず、ルカシェンコはそうした問題を加盟諸国との交渉で自力で解決しなければならないと、トゥラルベコヴァは指摘する。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1572

 ロシアは、欧米に対する対抗制裁として、同諸国からの主要食品の輸入を禁止しているわけだが、ワインはその対象になっておらず、ロシアの商店でフランスやイタリアのワインが普通に売られ続けていた。

 ところが、こちらの記事によると、今般ロシアは非友好国のワインに対する輸入関税を引き上げたということである。

 記事によると、とりあえず2023年一杯の時限的措置として、非友好国から輸入されるワインに対する関税率が、12.5%から、20%に引き上げられる(ただし1リットル当たり1.5ドル以上とする)。

 これにより、特に低価格帯のワインの値上がりが予想されるが、業界関係者によれば、南アフリカ、アルゼンチン、チリ、セルビア、モロッコ等の友好国からの輸入品や、国産品で低価格帯ワインの需要を埋めることができるので、大きな問題は生じないだろう、とのことである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

234

 個人的に、とにかくデータが揃っていないと、しかも当然最新のものでないと、気持ち悪いと思うタイプである。ウクライナの農産物輸出に関する黒海穀物イニシアティブが成立してから、同国の輸出が月ごとにどう推移してきたかを示したこのグラフは、最近定番で作成していたものなのだが、情報源だったウクライナ穀物協会から、いつまで経っても6月の数字が発表されない。今般ようやく、こちらの記事の中で、黒海穀物イニシアティブと、その他という数字が示されたが、個人的にはその他の中でもドナウ川港湾とそれ以外の内訳を知りたいわけであり、その数字はどこをどう探しても出てこない。ここで力尽き、当該の内訳を欠いた中途半端なものながら、穀物輸出問題が注目を浴びているご時世なので、グラフをお目にかける次第である。

 なお、上掲記事によれば、ウクライナ穀物協会では、黒海穀物イニシアティブ以外の代替ルートを「連帯ルート」と名付け、欧州委員会に輸送費の補助を要請するということである。ただ、ウクライナの安価な農産物が溢れるだけでも、欧州側が困惑しているのに、補助金まで出してくれという要請が、聞き入れられるかどうか。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1571

 こちらの記事の中で、A.シルアノフ・ロシア蔵相が財政事情につき語っているので、以下発言要旨をまとめておく。

 今年に関しては、財政の心配は要らない。歳入は、我々が予想したよりも好調である。それは非石油・ガス歳入の話で、前年の水準を18%ほど上回っている。付加価値税、法人税、所得税など、基本税種がすべて上向きだ。

 2023年1~2月に、我が国としては異例な前倒しの歳出が実行され、それにより歳出のペースが加速した。それらの歳出はあらかじめ計上されていたものだが、普通は第4四半期に実施する支出を前倒しでやったので、多くの人は財政赤字が拡大すると勘違いした。

 現時点では、財政赤字の見通しは、当初予算どおりであり、GDPの2.0~2.5%の水準となる。下半期になれば、より正確な見通しが得られよう。国庫には、計画されていた歳出、今後出てくる追加的な支出を賄うだけの充分な資金がある。

 2024年に関しては、現在まさに政府が、必要な歳出を賄うための財源を検討しているところである。

 財政赤字のファイナンスが、高くついていることは事実である。国内の借入市場は限定される。主に銀行が国債を買い入れているが、現在は10年もので11%以上の利回りが要求される。インフレ率が3.6%、政策金利が8.5%であるにもかかわらずだ。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1569

 ロシア中銀は7月21日の理事会で政策金利を1%ポイント引き上げ年率8.50%に設定することを決め、7月24日から施行した。4%のインフレターゲット達成のために、利上げやむなしと判断したものとされている。

 ロシアの政策金利の動きについては、タス通信の図解資料コーナーに出ている図が、非常に分かりやすく重宝するので、上掲のとおり拝借した。最近流行りの言葉で言えば、「タスも良いことをしている」というわけである。

 さて、こちらの記事によると、今般の中銀による大幅な利上げ決定は、市場の予想を上回るものだった。ヴェードモスチ紙がアンケートした21人のアナリストのうち、15人は0.5%ポイントの利上げを予想していた。

 ロシアのインフレについては、当ブログでも定期的に取り上げている。先日6月のインフレを紹介した時も、むしろ沈静化しているということを強調したと思う。確かに、2023年1~6月のインフレ率は5.55%で、ロシア中銀のインフレターゲット4%を上回っているが、それはひとえに昨年3月の激しいインフレを引きずっているからであり、6月の前年同月比では3.25%なのだが…。むろん、ルーブル安は大きな要因だし、それ以外にも中銀は表面的な数字からだけは評価できないインフレの兆候を掴んでいるのかもしれない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

a

 安直な企画ながら、ロシアとアフリカ諸国の関係が何かと注目を集める折りであるので、各種ウェブサイトから、ロシアとアフリカ諸国の関係性を図示したものをいくつかピックアップしてみる。

 まず、最初は総合的なものとして、2019年とやや古いが、こちらに掲載されている上図をお目にかける。凡例は、左上から、買い物かごみたいのがロシアにとっての主要な貿易相手国(2018年の取引量が9億ドル以上)、★マークが主な軍事パートナー(2018年の武器輸出額にもとづく)、原発建設計画、原子炉供給、ウラン採掘、右上に行って貴金属採掘、石油開発、ガス開発、ニッケル採掘、ロシア人軍事専門家の駐在を示している。

 下図は、2022年2月のこちらに出ていたより新しい資料で、軍事関係に絞ったものである。人の姿がロシア人傭兵の存在を、盾のようなマークが軍事技術協力協定を示しており、ワインレッドカラーが濃いほど武器輸入に占めるロシアのシェアが高いことを意味する。

b

 下図は、こちらに出ていたもので、軍事技術協力協定にフォーカスしたもの。ロシアはウクライナ情勢が動いた2014年以降、アフリカでの活動も活発化させたようだ。

c

 下図は、少々変わり種だが、こちらに出ていた、ロシアIT企業のアフリカ進出状況の図。

d

 最後は、最近焦点になっている穀物の関係。こちらに出ていたものであり、アフリカだけでなく中近東等も含んでいるが、各国の小麦輸入に占めるロシアおよびウクライナからの比率が大きい国を示している。

e

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

exim

 大したネタでもなく恐縮だが、ロシア中央銀行が発表している国際収支ベースの月別商品輸出入額を図示すると、上図のようになる。

 今年春、ごく大まかな輸出入状況については今後発表していくとアナウンスしたロシア税関だったが、結局そのあとすぐに、やっぱり発表しませんということになってしまった。したがって、現時点でロシアの輸出入額につき公式的に得られる数字は、このロシア中銀発表の国際収支ベースの輸出入額のみということになる。

 改めてこの図を眺めてみると、エネルギー・資源高に由来する2021年から2022年前半にかけてのロシアの輸出増は、異常なものだった。今年に入り、輸出額は大きく落ち込んでいるわけだが、2021年頃の水準に戻っただけと、言えなくもない。

 輸入に関しては、むしろ2022年に制裁の影響等で思うように輸入できなくなったことが問題だったわけであり、2023年にそれが回復していることはむしろロシア経済にとってはポジティブな動きであろう。

 そんなわけで、2022年の特徴だった巨額の「悪い貿易黒字」からは、だいぶ様相が変わってきた。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

217

 ロシア中央銀行から、2023年上半期の簡易な国際収支統計が発表されたので、経常収支の部分を整理して上表のようにお目にかける。なお、第2四半期については推計値となっている。

 2022年にロシアは、石油・ガス価格の高騰、資源高に支えられ輸出増を遂げる一方、制裁により輸入がままならず、結果的に過去最高の経常黒字を記録することになった。

 そこから一転して、2023年上半期には、輸出が前年同期の3分の2ほどの水準に落ち込み、輸入がある程度持ち直した結果、経常黒字は大幅に縮小した。表に見るとおり、6月には単月で赤字に転じている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 さて、チャートアクション的には、これからもっと上がるのだが、今週29位のRandy & the Rainbows - Deniseは、オールディーズファンには人気の高い一曲だろう。それにしても、Rust Recordsって、何で「錆」なんて名前付けた?

その頃ソ連では
1963年7月24-26日:モスクワでコメコン加盟国共産党・労働党第一書記および首相会議。

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ
19630727a
19630727b
19630727c

1564

 プーチン・ロシアは、ウクライナの農産物輸出に関する合意と、ロシアの農産物・肥料輸出に関する合意は一体のものであり、後者が依然として制裁により麻痺しているので、前者の延長にも応じないとの立場を示した。

 しかし、そもそも、ロシアの農産物・肥料輸出が本当に障害に直面しているのかという疑問がある。というのも、先日も当ブログでお示ししたとおり、2022/23年度のロシアの穀物輸出は前年度から30%以上も拡大し、過去最高を記録したと見られるからである。

 それでは、今日は、肥料について見てみよう。結論から言えば、現状で輸出は回復しつつあり、クレムリンが騒ぎ立てるような「麻痺した」状態とは思えない。

 ロシアからの肥料輸出状況に関しては、こちらに見るとおり、ロシア肥料生産者協会のA.グリエフ会長が5月下旬に発言している。会長によると、2022年のロシアの肥料輸出量は15%減に見舞われたが、輸出量は現状では回復しつつある。ロシアの肥料輸出は2021年の3,800万tが過去最高だったが、その水準に戻りつつある。2023年に3,800万tを達成するのは無理で、それは第1四半期の水準が低かったからである。それでも、第2、3、4四半期の輸出量は、2021年の同時期のレベルにまで回復することになろう。会長は以上のように語った。

 ちなみに、これも5月の動きになるが、こちらの記事によると、米国務省は国内および外国銀行と定期的に連絡を取り合い、ロシアからの食料および肥料輸出取引は制裁の対象外であるということを明確に伝えているという。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

image1170x530cropped

 告知ばかりで恐縮です。朝日新聞の「輸出協定を「人質」に揺さぶりかけるロシア 強気の背景を読み解くと」という記事でインタビューに答えています。有料記事ですが、ご利用できる環境にある方は、ぜひどうぞ。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

IMG_20230720_094352288

 もう一個告知。最近、ネット版のWedge ONLINEに書かせてもらうことが多いけど、今回は紙の雑誌版のWedge8月号に寄稿しました。「ロシアの愚行でとばっちり 大回り強いられる『中欧班列』」という論考であり、私の隠し芸的な研究分野の最新動向をまとめたものです。編集側が見やすい地図を作ってくれて良かった。こちらも本日7月20日発行。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

m202308cover

 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2023年8月号が発行されたので、ご紹介。8月号は、「地殻変動が始まったロシア・NIS貿易」と題する特集号となっております。本日7月20日発行。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 服部は、特集の一環として、「制裁下で変容するロシアの食料安全保障」、「北海道とロシアの貿易は魚介類輸入が軸」、「黒海穀物イニシアティブとウクライナ農産物輸出」と3本のレポートを執筆しております。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

Unilever-Multi-brand-Strategy

 安直ながらウィキ先輩をコピーすると、ユニリーバは英ロンドンに本拠を置く世界有数の一般消費財メーカー。食品・洗剤・ヘアケア・トイレタリーなどの家庭用品を製造・販売する多国籍企業。戦後から世界進出に積極的であり、現在世界180ヵ国以上に支店網を擁する。

 さて、こちらの記事によると、ウクライナ侵攻を受け、ユニリーバは2022年3月、外国からロシアへの輸出と、ロシアへの新規投資、ロシアにおける宣伝広告は停止すると発表した。ただし、ユニリーバのロシアにおける生産と国内販売は続けられている。そしてこのほど同社では、ロシアで展開している傘下のブランドを、ロシア向けに改名する可能性についても否定した。

 ユニリーバ・ロシアの売上は、2021年の5,600万ユーロから、2022年の1億800万ユーロへと拡大している。

 なお、ウクライナの汚職防止庁は、ロシアビジネスを継続する英ユニリーバを、戦争の国際的なスポンサーのリストに加えている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

zi

 昨日有効期間が切れることになっていた黒海穀物イニシアティブだったが、その当日にロシアナショナリズムの琴線に触れるクリミア橋が攻撃を受けるという事態となり、ロシアが「延長に反対する」と表明する事態となった。私の理解によれば、ロシアは瀬戸際戦略に出ており、まだ完全に協定から離脱したということではないはずだが、いずれにしても雲行きは相当険しくなってきた。

 論点は色々あるが、とりあえず、ロシア外務省が昨日発表したこちらの声明を参照してみよう。プーチンは昨年来、最貧国を救うために合意された黒海穀物イニシアティブだったはずなのに、現実には同スキームでウクライナ産農産物はEUをはじめとする豊かな国にばかり向かっているとクレームをつけてきたわけだが、今回の外務省声明でもそれに沿った批判がなされている。

 すなわち、昨日の外務省声明では、黒海穀物イニシアティブが実行された期間中に、3,280万tの農産物が輸出されたが、うち70%以上(2,610万t)がEUをはじめとする高所得および高中所得国に向かい、他方でエチオピア、イエメン、アフガニスタン、スーダン、ソマリアに代表される最貧国の比率は3%以下の92.2万tにすぎない、と指摘されている。この指摘は正しいだろうか?

 上掲の図は、2023年7月4日までの実績を私がまとめたものである。対象国の所得水準の分類は、世銀のそれを利用した。

 まず、ロシアが言うところの「最貧国」について。世銀の分類でそれに該当するのが、後発開発途上国(LDC)というものである。ここで問題なのは、ロシア外務省が「最貧国」からLDCのバングラデシュを除外していることである。実はLDCでウクライナ産農産物を最も多く受け入れているのはバングラデシュなので、それを入れるのと入れないのとで、印象がだいぶ違ってくる。世銀分類にもとづいた私の集計では、LDCの比率は5.8%となる。

 一方、70%以上(2,610万t)がEUをはじめとする高所得および高中所得国に向かっているというのは、まったくそのとおりであり、私の集計によればその比率は70%どころか80.6%に及んでいる。ただ、その際に実にあざといのは、ロシアがやたら「裕福なEUがウクライナの食料を吸い上げている」という構図を強調し、単独の国としては最大の受益国である中国のことに触れない点である。ロシアは、ウクライナの穀物はスペインでイベリコ豚の餌になっているといったことばかりを強調するが、それ以上に中国の養豚団地の餌になっているということには沈黙を貫く。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1551

 こちらの記事によると、ロシアの外資系食品メーカー2社、ダノン・ロシアとバルチカにつき、外国企業の持ち分が一時的にロシア国家管理に移管されることになった。

 7月16日付の大統領令で決まったものである。ダノン・ロシアに関しては、Produits Laitiers Frais Est Europeとダノン・トレードに属していた普通株が、ロシア国有資産管理庁に移管される。バルチカに関しては、Carlsberg Sverige Aktiebolag、Hoppy Union、Carlsberg Deurschland GmbHが保有していた株が、やはりロシア国有資産管理庁に移管される。

 仏系ダノンは昨年10月、買戻しオプションを付けた上で、経営権を譲渡する意向を示していた。デンマーク系カールスバーグは昨年3月、ロシアへの投資を停止し、ロシア資産を売却する意向を示していた。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

image1170x530cropped

 昨年7月に成立し、8月から施行されている「黒海穀物イニシアティブ」に関しては、当ブログで何度も取り上げている。そして、協定の現在の有効期限が、明日7月17日で切れることになっており、ロシアが例によって延長妨害の動きを見せている。プーチン政権の立場は、ウクライナ産穀物についての合意と同時に、ロシア産穀物・肥料輸出を円滑化する合意も国連・ロシア間で成立したが、相変わらずロシアの輸出は障害に直面しており、両合意は一体のものなので、ロシア産についての合意が履行されていない以上は、ウクライナ産についての合意延長にも同意できない、というものである。

 しかし、ロシアの対応を観察していると、事前には「我が国の要求が満たされていない」と騒ぎ立て、黒海穀物イニシアティブの次回延長には応じないと強い剣幕で警告しておきながら、実際に期限の間際になると、意外にあっさりと延長に同意するというパターンが見て取れる。2023年3月18日にも、5月18日にも、それぞれ60日間の延長に結局は応じている。

 黒海穀物イニシアティブの、需要国側の最大の受益者は、実は中国であり、同イニシアティブによるウクライナ産農産物輸送の4分の1ほどは中国に向かっている。中国外務省が2023年2月24日に発表した12項目から成る「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」でも、第9項「穀物輸出の促進」において、黒海穀物イニシアティブの継続が強く訴えられており 、この問題を政治的駆け引きに使うロシアに釘を刺した格好になっている。習近平に頭の上がらないプーチンが、黒海穀物イニシアティブを実際に潰すのは、無理であるとの指摘がある。同イニシアティブ廃止を中国に納得してもらうためには、プーチンがロシア産のトウモロコシ500万tくらいを携えて訪中する必要があるかもしれない。

 ともあれ、7月17日の期限を控え、プーチン政権が例によって駆け引きを強めているところである。こちらの記事によると、プーチンは7月15日に南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と電話会談した際にも、この問題を取り上げた。この中でプーチンは、合意は一体のものであるはずなのにロシア産食料・肥料の輸出に関する国連・ロシアの合意書は今に至るまで履行されていない、黒海穀物イニシアティブの主眼はアフリカを含む途上国への穀物供給なのにそれが成し遂げられていない、などと主張した。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

↑このページのトップヘ